2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」は120年ぶりの民法大改正と呼ばれ騒がれました。
あれから2年、気が付くと2020年4月1日の施行まであと1年を切りました。
今回は、本民法改正による賃貸不動産事情について、宅建・賃貸不動産経営管理士試験と照らして再確認していきたいと思います。
目次
民法改正(債券法)改正が不動産賃貸に与える影響<抜粋>
① 賃貸借終了時のルールが明確化(明文化)されました ~敷金・原状回復~
② 賃貸不動産オーナーチェンジによる賃料請求権等のルールが明確化(明文化)されました
③ 賃貸借契約における連帯保証に極度額設定が義務化され連帯保証人が保護されました
① 賃貸借終了時のルールが明文化 ~敷金・原状回復~
いままでの「敷金」の役割
「敷金」
不動産を賃貸する際に「敷金」「礼金」という言葉を耳にすることと思います。
筆者も会社の寮を出て、初めて賃貸するときにこの「慣習」と向き合いました。
ですが、不動産業界の闇の一つである「礼金」と違い、「敷金」の意義は比較的クリーンなのではないでしょうか。
ざっくりですが、「敷金」は賃貸借終了時に未払債務(賃料の滞納、原状回復など)に補填される、いわば「担保」のような性質があります。
皆さんも何となくこのイメージではないでしょうか。
しかし、実はいままでの民法では、この「敷金」の意義や役割が明文化されておらず、「慣習や判例」によって運用されていたのです。
改正内容
改正といっても、ルールが変わるわけではありません。
従前「慣習や判例」によって運用されていた部分が「民法に明文化された」だけです。
(1) 敷金の定義:名目を問わず、賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭
⇒「名目を問わず」がポイントです。名目が「保証金」「礼金」であっても、
担保目的であれば民法上は「敷金」になります。
(2) 敷金の返還時期:賃貸借契約の期間が終了し、物件・鍵の引渡し(返却)が完了したとき
(3) 敷金返還の範囲:当初差入れた金額から、賃料などの未払債務を控除した残金
(4) 原状回復の範囲:賃借中の損傷のうち、「通常損耗」「経年変化」についてはその義務を負わない
⇒これも法律番組などでよく取り上げられており、慣習としては有名かと思います。
例えばフローリングや壁紙の日焼け、画びょうなどの小さな穴については「通常損耗」として、原状回復の義務を負いません。
(1)~(4)は今までもルールとしては存在していました。「慣習や判例」によって、紛争時にはこれがスタンダードとして運用していました。
今回の改正では、これらが民法に明文化されたのです。
宅建・賃貸不動産経営管理士試験の影響
こちらの「敷金・原状回復」に関する試験の出題については、ルール変更がないため正誤に大きく影響を与えることは考えにくいです。
ただし出題方法として、「原状回復・通常損耗」に関する引用について、いままでは判例が用いられていましたが、2020年度の試験以降は「民法の条文」が引用される可能性があります。
引用とはいえ、試験本番で初見になるより事前に目を通しておいたほうがいいでしょう。
② 賃貸不動産オーナーチェンジによる賃料請求権等のルールが明文化
オーナーチェンジによる賃料請求権はどうなる?
「オーナーチェンジ」
もしかするとあまり聞きなじみがない方も多いかもしれません。
不動産業界ではよく耳にする言葉で、所有する不動産を賃貸に出していて、その賃貸借契約期間中に物件を売買することを言います。
借主側の立場から見ると、「賃貸している部屋の大家さんが変わった」ということです。
オーナーが変わったからといって、借主を追い出すようなことは絶対にありえませんね。
では、オーナーチェンジが発生したとき、借主の賃料はどうなるのでしょう。
筆者も賃貸不動産を数件保有しており、「オーナー」です。
いずれの物件も購入時にはすでに賃借人が居住しており、「オーナーチェンジ」でした。
この時、筆者が契約をしたのは、
Ⓐ この物件の元オーナー(売主)
Ⓑ 管理会社(集金代行等)
のみです。
すでに入居していた借主とは再契約することはしていません。賃料も基本的にはそのまま引き継ぎます。(変更する場合は別途契約締結)
これは、不動産業界の「慣習・判例」により、「賃貸人の地位が新オーナーに移転した」とみなされるためです。
しかし、あくまでも「慣習・判例」によるもので、民法上の規定はありませんでした。
改正内容
敷金・原状回復と同様、ルールは変わりません。
前述した賃料請求権等のルールが民法に明文化されたのです。
(1) 地位継承:賃貸中の不動産を譲渡した場合、賃貸人としての地位は譲受人に継承する。
※ 不動産登記が必要です。
宅建・賃貸不動産経営管理士試験の影響
こちらも「敷金・原状回復」と同様、引用文が「判例」から「民法の条文」に変更されることが予想されます。
改正後の試験勉強時に民法の条文は必ず目を通しておいてください。
③ 賃貸借契約における連帯保証に極度額設定が義務化(連帯保証人の保護)
こちらの改正内容については、ルールの変更になり、実務上影響があります。
改正前の問題点
連帯保証人に関するトラブルについては説明不要かと思います。
こうしたトラブル回避のため、2008年の民法改正によりいわゆるローンなどの「貸金等債務」にかかる連帯保証については、「極度額(保証の上限額)」の設定が義務付けられました。
これは、保証設定時の当初の貸金以外にも、事業継続によって発生した債務すべて保証させる(=根保証)ことを制限したものです。
一方で、住居の賃貸借など「貸金等債務がない連帯保証人」については、この保証の対象外でした。
これは保証の対象として想定されていたのが「賃料」など比較的安価なもののみであったためと推察されます。
しかし、
例えば、借主の過失によって賃貸物件を焼失・滅失させてしまった場合などの高額な債務についても保証の対象となるのです。
こういった債務からも連帯保証人を保護するため、今回の改正に至りました。
改正内容
(1) 賃貸借や継続取引の債務(貸金等の債務以外)について、極度額の設定を義務化
(2) 保証人の死亡、連帯保証人の死亡・破産など特別な事情がある場合には保証打ち切り
宅建・賃貸不動産経営管理士試験の影響
こちらはルール・実務上の変更にあたりますので、正誤に関わる変更が予想されます。
<例題>(2020年4月1日以降の試験を想定)
住宅の賃貸借契約締結時の連帯保証については、貸金等債務ではないため極度額設定は不要とされている。
⇒ ×
2020年4月1日以降、民法改正により「貸金等債務以外」についても極度額設定が義務化されます。
まとめ
いかがでしょうか。
不動産賃貸実務に影響のある改正はそれほど多くはありませんが、宅建・賃貸不動産経営管理士試験においては注意が必要です。
また、「敷金・原状回復」の規定が民法に明文化された、というのは不動産業界においては大きな意味を持つと個人的には考えます。
不動産業界には「慣習」いわば「業界ルール」が蔓延っており、ルールを法律ではなく「指針」などといった閉鎖的な発信により定めている傾向があります。
そのため、一般消費者からすると非常にその内情が見えづらく、結果的に「知らなかった故の損失」につながりかねません。
現在はインターネットの普及などにより、「慣習」や「業界ルール」も一般的に知れ渡りつつありますが、トラブル・紛争を回避するにはやはり法律で定めるのが最善です。
こういった動きがさらに活性化していくことを願っています。